
建設現場で使用される「一側足場」は、狭小スペースでの作業に適した足場ですが、墜落・転落事故のリスクが高いことから、安全衛生上の課題とされてきました。このような背景を受け、労働安全衛生規則が改正され、一側足場の使用範囲が明確化されるとともに、点検体制の強化が図られました。
本記事では、最新の法改正情報をもとに、一側足場の安全衛生対策と実務対応について詳しく解説します。現場での安全管理や法令遵守に役立つ情報を提供しますので、ぜひご一読ください。
一側足場とは?特徴と使用される場面

一側足場は、建地(垂直支柱)が一列に配置され、壁面などに控え材で固定する足場です。狭小スペースや隣接建物との距離が近い現場で使用されることが多く、設置が容易でコストも抑えられるという利点があります。しかし、構造的に安定性が低く、墜落・転落事故のリスクが高いとされています。
一側足場に関する法改正の背景
建設業における墜落・転落事故は、労働災害の中でも高い割合を占めています。特に一側足場においては、手すりの設置義務がないことや、構造的な不安定さから事故が多発していました。このような状況を受け、厚生労働省は労働安全衛生規則の改正を行い、一側足場の使用範囲を明確化し、安全対策の強化を図りました。

労働安全衛生規則の改正ポイント
一側足場の使用制限
改正労働安全衛生規則では、幅が1メートル以上の作業場所においては、原則として本足場の使用が義務付けられました。一側足場の使用は、やむを得ない場合に限られ、その際には安全措置を講じる必要があります。この改正は、2024年4月1日から施行されています。
次の場所は「1m以上の場所」に含まれません。
- 一部が公道にかかる場合
- 敷地の使用許可が下りない場合

足場点検者の指名と記録の義務化
足場の安全性を確保するため、事業者は足場の点検者をあらかじめ指名し、点検を行わせることが義務付けられました。また、強風や大雨などの悪天候後や、足場の組立て・解体後には点検を行い、その結果と点検者の氏名を記録・保存する必要があります。この改正は、2023年10月1日から施行されています。
【足場の組立て、一部解体又は一部変更の後の点検者になれる人】
- 足場の組立て等作業主任者で、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講している者
- 労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)等労働安全衛生法第88条に基づく足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者
- 全国仮設安全事業協同組合が行う「仮設安全監理者資格取得講習」を受けた者
- 建設業労働災害防止協会が行う「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた者
足場等の種類別点検チェックリスト
点検を行うときは、チェックリストを用いることをおススメします。
一側足場の安全衛生対策
設置時の注意点
- 安定した支持構造の確保:控え材や壁つなぎを適切に設置し、足場の安定性を確保します。
- 作業床の強度確保:作業床は、使用する機材や作業員の重量に耐えられる強度を持つものを使用します。
- 手すりの設置:法令上義務付けられていない場合でも、墜落防止のために手すりを設置することが望ましいです。
使用中の点検と管理
- 日常点検の実施:作業開始前に、足場の状態を点検し、異常があれば速やかに補修します。
- 定期的な安全確認:定期的に足場の安全性を確認し、必要に応じて補強や改修を行います。
- 点検記録の管理:点検結果と点検者の氏名を記録し、作業終了まで保存します。
5. 実務対応のポイント
施工計画への反映
一側足場の使用が必要な場合は、施工計画書にその旨を明記し、安全対策を具体的に記載します。また、関係者との情報共有を徹底し、安全意識の向上を図ります。
教育・訓練の実施
作業員に対して、一側足場の安全使用に関する教育・訓練作業員に対して、一側足場の安全使用に関する教育・訓練を実施することが重要です。特に、次の点についての理解を深めることが求められます。
- 一側足場の構造的な特徴とリスク
- 足場の安全な昇降方法や作業姿勢
- 異常発見時の対応手順と報告体制
- 保護具(安全帯、ヘルメットなど)の正しい使用方法
また、点検を担当する者に対しては、点検項目や記録の作成方法に関する具体的な指導も必要です。社内でのOJTや、外部講習の活用も有効です。
まとめ:安全な作業環境の構築に向けて
一側足場は、現場の状況によっては今後も使用が避けられないケースがありますが、法改正により、使用に対する条件や安全措置が厳格化されました。これにより、現場の安全管理者や施工責任者には、これまで以上に明確な対応が求められます。
この記事で解説したポイントをふまえ、次のアクションを検討しましょう
- 現場で使用している足場の種類と適正性を確認する
- 施工計画書に足場の構造と点検体制を明記する
- 点検体制の整備と記録管理を徹底する
- 現場作業者への安全教育・訓練を継続して実施する
「使ってはいけない」ではなく、「使うならどう安全を確保するか」という視点が、今後の一側足場の運用には欠かせません。安全衛生のルールを守り、作業者が安心して働ける環境を整えていきましょう。