がん原性物質の管理方法

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有機則や特化則のように、法令の中で具体的な対応が記載されておらず、対応に困っている方が多いのではないでしょうか?

この記事では、がん原性物質に対してのリスク管理や法令の対応について説明します。

がん原性物質って何?

がん原性物質とは、厚生労働省が指定する化学物質で、人体に対して発がん性が疑われる又は明らかな物質のことを言います。

国の有害性調査で、ラットやマウスなどの動物実験から哺乳類への発がんの可能性がある物質が指定されています。

がん原性物質はどんな物質が対象なの?

がん原性物質に指定されている背景

化学物質では人体に対する危険・有害性の度合いを示す指標として、GHS区分があります。

GHS区分は、

(例)引火性 区分〇(1~4の数値)

のように表記され、〇の数値が小さいほど、危険・有害性が大きいものとされています。

がん原性物質は、GHS区分の「発がん性」の項目が「区分1」になっているものが指定されています。

発がん性区分は、区分1~4まであり、区分1が最も人体に対して影響が大きい(発がんリスクが大きい)物質です。

がん原性物質となる対象物質は?

がん原性物質は、SDSの通知対象物質であって、発がん性区分1のものが対象となっています。

下記リンク先の物質ががん原性物質の指定物質です。

(参考)がん原性物質対象物質(厚生労働省)

がん原性物質の法的な対応について

上記2で述べたとおり、がん原性物質は発がんリスクが大きい物質が指定されています。

それにも関わらず、法令には「がん原性物質」を取扱うときの具体的な対応がほとんど示されていません。

(化学物質の法改正によって、自律的な管理を求められるようになったことに関係しています)

がん原性物質を取扱う場合、法律で決まっていることは以下の通りです。

  • がん原性物質を取扱う場合は、リスクアセスメントをすること
  • 作業記録を作成し、保管すること。

化学物質の法令の代表例として有機溶剤を規制する「有機則」があります。

有機則には、「換気装置を設置する」「健康診断をする」「作業環境測定をする」など、いろいろ措置が記載されていますが、「がん原性物質」の場合は、上記の2点(RAと作業記録)のみとなります。

がん原性物質については、「各社でリスクアセスメントをして、リスクに応じた必要な対応をしなさいよ」ということなのですが、具体的な対応が書いてないと、どこまでリスクを下げればいいのか判断難しいところですよね。

項目4のところで、がん原性物質のリスク評価の考え方や対応について説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。

がん原性物質のリスク管理

がん原性物質には濃度基準値の設定がありません。

※濃度基準値:「空気中の有害物の量が基準値を超えなければ、大半の方は健康的に問題がなく作業を継続できますよ。」という値です。

「濃度基準値がない」ということはどうゆうことなのでしょうか?

 それは、「リスクを下げるべき目標値がない」ということを意味します。

有機溶剤などの化学物質には、一般的に濃度基準値(許容濃度や管理濃度など)が設定され、濃度基準値を下回るような管理を行っています。

がん原性物質は、濃度基準値がないため、濃度を下げることは大事な考え方ですが、濃度基準値を目標とすることはできない。ということになります。

つまりは、空気中の濃度を目標とはせず、別の考え方でリスクを低減していく必要があります。

がん原性物質のリスク評価の方法

がん原性物質は、リスクアセスメントをすることが義務となっています。

リスクアセスメントには一般的に以下のような方法があります。

  • 数理モデルによる方法(クリエイトシンプル法などの厚生労働省が推奨する方法)
  • 産業医や化学物質管理者の巡視によってリスクを判断する
  • 空気中の有害物を補修し、飛散の有無を確かめる方法(個人暴露測定のやり方)
  • (粉体であれば)電子顕微鏡などで、粉体の大きさを確かめる方法

世の中的には、リスクアセスメントといえば、何かしらのリスクレベルが出るツールをイメージされる方が多いようですが、法令の中には「ツールによりリスクアセスメントをすること」とは記載されていません。

会社として、適切だと考えるリスクアセスメント手法を選択し、使用する物質のリスク評価をしっかり説明できるのであれば問題はないのです。

溶剤系と粉体系のリスクアセスメント手法

溶剤蒸気の吸入と飛散粉塵の吸入について、リスクアセスメント手法の一例を説明します。

共通のリスクアセスメント手法はなく、がん原性物質によって適切な手法は変わることに注意してください。

溶剤蒸気を吸入する場合のリスクアセスメント手法の例

①厚生労働省がネット上に公開している「有害性調査」より、発がん性物質となった経緯を確認する。

(物質によっては、発がんする濃度が調査によって推定できるものもあるため)

②作業中の空気中のがん原性物質を測定する。

③測定により、空気中のがん原性物質濃度がゼロであれば、リスクはないと判断し、リスク低減のための対策は不要とする。

④測定により、空気中にがん原性物質が浮遊しており、上記①で許容できる濃度があるのであれば、発散源の密閉化や換気装置などにより濃度以下になるように管理する。

粉塵を吸入する場合のリスクアセスメントの例

①厚生労働省がネット上に公開している「有害性調査」より、発がん性物質となった経緯を確認する。

(形状によって発がんしないと判断できるものや、許容濃度が推定できるものがあるため)

②(形状や粒形によって発がんリスクを否定できるのであれば)粉体を電子顕微鏡などにより分析し、形状と粒形を明らかにする

③作業中の空気中の粉塵量を測定し、空気中のがん原性物質がないのであれば、リスクはないと判断し、追加の安全対策は不要とする。

作業記録の作成と保管方法

がん原性物質を取扱う場合、作業記録を作成する必要があります。

作業記録に必要な項目は以下の通りです。

  • 労働者の氏名
  • 従事した作業の概要
  • 当該作業に従事した期間
  • 著しく汚染される事態が生じたときにはその概要及び講じた応急措置の概要

(作業記録の一例)

対象物質氏名作業概要著しく汚染される事態応急措置
がん原性物質A25年4月安全太郎部品の洗浄作業地震によって洗浄層の溶剤が約10L程度漏洩した。保護手袋とマスクを着用させ、洗浄層付近の清掃業務を行った。

作業記録は、30年保管が必要です。

発がん性物質は、暴露してもすぐ症状がでるものではありません。

数十年後に、発がんすることも十分考えられます。

もし、発がんしてしまった場合に、従業員が適切に労災保険を受給できるよう、作業記録の保管は適切に行いましょう!

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