
本記事は、建設業や製造業など粉じん作業を行う事業者の皆様に向けて、2025年4月1日から施行された粉じん作業場所の掲示義務とその具体的な内容、安全対策について解説します。
新たな法令に対応することで、労働者の健康を守り、法令遵守による企業の信頼性向上につながります。この記事を読むことで、掲示義務の詳細や適切な掲示方法、安全対策のポイントを理解し、現場での適切な対応ができるようになります!
改正の背景と目的

2025年4月から粉じん作業場所での掲示が義務化された背景には、作業者の粉じんによる健康障害(じん肺、肺がんなど)のリスクが十分に認識されていない実態があります。
厚生労働省の調査では、防じんマスクの未着用や適切な作業手順の不徹底が多く確認されました。
これを受け、作業現場で「粉じん作業であること」や「必要な保護具・作業方法」を明確に“見える化”し、労働者の自己防衛を促すことが掲示義務化の目的とされています。
掲示内容の変更点とは?

これまでは粉じん作業について、掲示が必要なものはありませんでしたが、2025年4月から次の掲示が必要となりました。
改正後の掲示内容:
- 粉じん作業場である旨
- 粉じんにより生ずるおそれのある疾病の種類及び粉じん等のその症状
- 取扱い上の注意事項
- 特定の場合※においては、工場内は、有効な呼吸用保護具を使用すべき旨および使用すべき呼吸用保護具

掲示項目である「粉じん作業の種類」は粉じん障害予防規則の別表1から当てはまる作業を記載しよう!
このように、実際の危険性や対応行動に即した内容が掲示されることで、労働者自身が行動しやすくなり、安全意識の向上が期待されます。
特定場所ってなに??
特定場所は、防じんマスクを着用することで換気装置が不要となる作業場所、作業環境測定で第3管理区分の場所、トンネル内で電動ファン付き保護具を使用する場所などがあります。
特定場所に該当したら、着用する保護具を掲示する必要があります。
掲示方法の柔軟化で何が変わったか
これまでの法令では、掲示は「掲示板に紙を貼る」ことが前提となっており、サイズや設置場所にも制約がありました。しかし、改正後はより柔軟に対応できるようになっています。
変更点の具体例:
- 電子掲示が可能に:デジタルサイネージ、パソコン画面、タブレット等による表示が認められました。
- 掲示場所の自由度向上:作業者の視認性を確保できる場所であれば、ロッカー、作業場の壁、休憩所なども使用可能です。
- 多言語対応が推奨:外国人労働者への配慮として、日本語以外でも掲示が可能です。
この柔軟化により、作業実態に合わせた掲示が行えるようになり、より実効性の高い安全衛生管理が期待できます。
事業所での具体的な対応ステップ
掲示義務改正に対応するために、事業者が行うべき実務対応を以下に整理します。
ステップ1:現行の掲示内容の確認
まず、現場に掲示されている有機溶剤関連の掲示物を確認し、旧内容のままになっていないかチェックしましょう。
ステップ2:新基準に基づいた掲示内容の作成
厚生労働省の通知や、労働基準監督署から提供されている雛形をもとに、新しい掲示物を作成します。SDS(安全データシート)から有機溶剤の作用や応急処置方法を抜粋するのも有効です。
ステップ3:掲示場所・方法の選定
現場の動線や作業状況を考慮して、掲示場所を決定します。掲示板に加え、休憩所やパソコンの起動画面なども有効な掲示手段になります。
ステップ4:従業員への説明と周知

掲示内容が変更されたことを従業員に説明し、内容理解を促します。安全衛生委員会やミーティングでの説明が効果的です。
ステップ5:定期的な見直し
掲示物が劣化したり、内容が古くなったりしていないかを定期的に確認し、必要に応じて更新しましょう。
よくある質問と注意点
Q1:掲示項目の「粉じん作業の種類」って何を書くの?
粉じん障害予防規則の別表1に粉じん作業の一覧が載っていますので、当てはまる作業内容を記載しましょう。別表1の粉じん作業の内容は以下リンク先から確認しましょう!

Q2:掲示は1カ所だけで良い?
作業者が視認しやすい場所であれば1カ所でも構いませんが、複数の作業エリアがある場合には、それぞれに設置するのが望ましいです。
Q3:電子掲示だけで紙の掲示は不要?

電子掲示も認められますが、停電などのリスクも考慮し、必要に応じて紙の掲示を併用するのが望ましいでしょう。
主な法的根拠と罰則
労働安全衛生法 第100条(罰則)

この法律の規定に違反した者に対しては、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。
- 粉じん作業場所の掲示義務は、労働安全衛生法に基づく厚生労働省令(粉じん障害防止規則)等により定められています。
- そのため、掲示を怠ったり虚偽の内容を掲示した場合には、上記の刑事罰が適用される可能性があります。
まとめ
粉じん作業に関する掲示の義務化は、作業者の健康を守るために非常に重要な取り組みです。掲示は単なる書類の貼り出しではなく、現場で働く人が自らリスクを認識し、安全な行動を選択できる環境を整えるための“命を守る表示”です。
掲示の内容や設置場所に不備があると、健康障害のリスクが高まるだけでなく、法令違反による罰則や企業の信用失墜にもつながります。掲示は一度設置して終わりではなく、作業の変化に応じて見直し、常に最新の状態を保つことが大切です。
安全衛生担当者や現場管理者の皆さんは、今回の法改正をきっかけに、自社の粉じん対策を見直し、「掲示による安全の見える化」を積極的に進めていきましょう。作業者の健康と安全を守る第一歩は、日々の地道な取り組みにあります。