有機溶剤の法令って複雑でわかりにくいですよね。
この記事では、有機溶剤を使用すると適用される有機溶剤予防規則(以下、有機則)について、解説していきます。法令で必要な管理方法について理解することができます。

目次
有機則の適用について
有機則が適用されるのは、屋内※1で、有機溶剤を有機溶剤業務として行っている場合に限られます。
外で有機溶剤を使用している場合や、有機溶剤を使用しているが法令の有機溶剤業務を行っていない場合などでは、有機則の適用を受けることはありません。
「有機溶剤を使用している=有機則の適用を受ける。」
と勘違いをされている方が多いと思いますので、注意しましょう。
【屋内とは?】
天井、床および壁の総面積に対する直接外気に向かって開放されている窓その他の開口部の面積の比率(開口率)が3パーセント以下の場所(昭和53年8月31日通達)
有機溶剤って何?どんなものがあるの?
有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を持つ有機物の総称であり、様々な職場で、溶剤として塗装、洗浄、印刷等の作業に幅広く使用されて
います。有機溶剤は常温では液体ですが、一般に揮発性が高いため、蒸気となって作業者の呼吸を通じて体内に吸収されやすく、また、油脂に溶ける性質
があることから皮膚からも吸収されます
有機溶剤には、以下の3種類(全54種類)の有機溶剤があります。
ちなみに、有機則の適用を受けるのは、製品中に「5パーセント以上」有機溶剤を含むものです。
有機溶剤業務について

有機則が適用されるには、「有機溶剤業務」を行っている場合に限られます。
有機溶剤業務は、以下の通りです。
- 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌、加熱⼜は容器若しくは設備への注入の業務
- ロ染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、⾹料、⽢味料、⽕薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤⼜はこれらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌⼜は加熱の業務
- 有機溶剤含有物を用いて⾏う印刷の業務
- 有機溶剤含有物を用いて⾏う文字の書込み⼜は描画の業務
- 有機溶剤等を用いて⾏うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
- 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
- 接着のために有機溶剤等を塗布された物の
- 接着の業務
- 有機溶剤等を用いて⾏う洗浄⼜は払しょくの業務
- 有機溶剤含有物を用いて⾏う塗装の業務
- 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
- 有機溶剤等を用いて⾏う試験⼜は研究の業務
- 有機溶剤等を入れたことのあるタンクの内部における業務
ここまで読んでいただいた方のために、復習です。
【質問】有機則が適用される場合はどのようなシーンでしょうか?
【答え】「屋内」で「有機溶剤」を「有機溶剤業務」として行う場合に有機則が適用されます。
いずれかの条件を満たさない場合は、有機則は適用されず、法令違反は問われません。
有機則の対応の概要
有機則の適用を受ける作業をしている場合、法令では以下の対応を行う必要があります。
- 換気装置の設置
- 有機溶剤の掲示
- 作業主任者の選任
- 作業環境測定
- 健康診断
有機溶剤の区分(第1種~第3種)によって、適用される条文が異なります。
下表により、チェックしてみましょう!

換気装置の設置・点検について

有機溶剤の種類によって、局所排気装置・プッシュプル装置・全体換気のいずれかを設置する必要があります。
一般的によく使われる第2種有機溶剤(アセトン、トルエン、IPAなど)の場合、局所排気装置またはプッシュプル装置を設置する義務があります。
法令では吸入リスクに対して、換気装置を設置つけることが前提となっており、保護マスクを着用させているから、換気装置の設置が免除されるものではありません。
※例外として、「短時間業務」や、「一時的な業務」、「臨時の業務」については、換気装置の設置が免除されます。
作業主任者について
屋内で有機溶剤業務を行うときは、作業主任者を選任する必要があります。
作業主任者は、「有機溶剤作業主任者技能講習」を修了した方を選任します。
作業主任者には、次の業務を行わせる必要があります。
- 作業方法を決定し、労働者を指揮すること
- 換気装置を1月以内ごとに点検すること
- 保護具の使用状況を監視すること
- タンク内作業の場合、必要な措置が行われているか確認すること。
作業主任者を選任した場合は、氏名と業務内容の掲示を行います。(「7.有機溶剤の掲示」を参照)
有機溶剤の掲示について
有機溶剤で使用な掲示は以下の通りです。
- 有機溶剤名称や人体への影響などの掲示
- 有機溶剤の区分の掲示
- 有機溶剤作業主任者の掲示
- (選任していれば)保護具着用管理責任者の掲示
掲示内容や掲示看板の購入は、それぞれのリンク先からご確認ください。
【有機溶剤名称や人体への影響などの掲示】

【有機溶剤の区分の表示】

【作業主任者の掲示】

⇒作業主任者職務表示板 356-21A 有機溶剤 | 【ミドリ安全】公式通販
【保護具着用管理責任者の掲示】

作業環境則測定について
第1種有機溶剤または第2種有機溶剤を使用する作業場所では、6月以内ごとに作業環境測定を実施する必要があります。
作業環境測定は、有害物が作業場所の空気中にどの程度、存在しているかを確認し、環境改善の必要性があるかを判断するために行います。
作業環境測定は、作業環境測定士(国家資格)を取得した方が実施します。
作業環境測定は、作業環境の良否の指標として「管理区分」の結果がでます。
管理区分は1~3まであり、管理区分3が最も作業環境が悪い状態をいいます。
管理区分3となった場合は、直ちに管理区分が下がるよう、作業環境改善(発散源の除去や換気装置の設置など)を行い、管理区分2以下にしないといけません。
管理区分3が継続している場合、労基署から是正勧告を受けることになりますので注意が必要です。
有機溶剤の健康診断について

有機溶剤業務に常時従事する方は、6か月以内ごとに1回、有機溶剤の健康診断を実施する必要があります。
有機溶剤の検診項目は以下の通りです。
【必須項目】
- 業務の経歴調査
- 有機溶剤による健康障害に既往歴の調査
- 有機溶剤による自覚症状または他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
- 尿中の蛋白の有無の検査
【医師が必要と認める場合に行う項目】
- 作業条件の調査
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 腎機能検査(尿中の蛋白の有無の検査を除く)
- 神経内科学的検査
健康診断を実施した場合は、健康診断個人票を会社は5年間保存する必要があります。
また、健診結果は労働基準監督署に提出する必要があります。(様式第3号の2)
保護具の選定と保管について
臨時に行う有機溶剤業務、短時間の有機溶剤業務など、局所排気装置を設置しない場合に送気マスクまたは有機ガス用の防毒マスクを使用させなければいけません。
防毒マスクは有効時間(破過する)がありますので、使用時間の管理が重要です。
保管場所は有害物の飛散がない、清潔な場所で保管しましょう。
ロッカーなどを準備し、個人ごとで保管するのがおすすめです。
貯蔵と保管方法について
貯蔵するときは、有機溶剤がこぼれ、漏洩し、または発散するおそれのない栓などをした容器を用い、施錠できる換気の良い場所に保管しなければなりません。
また、使い終わった空容器は、密閉するか、屋外の一定の場所にまとめておく必要があります。
保護具着用管理責任者について
化学物質の取り扱いを行う場合に、化学物質の飛散や吸入を防止するために、保護具を従業員に着用させている場合は、「保護具着用管理責任者」の選任が必要になります。
保護具着用管理責任者の選任要件は以下の通りです。
- 化学物質管理専門家の要件に該当する者
- 作業環境管理専門家の要件に該当する者
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者
- 第1種衛生管理者免許又は衛生工学衛生管理者免許を受けた者
- 有機溶剤作業主任者技能講習、鉛作業主任者技能講習又は特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習の修了者
- 安全衛生推進者に係る講習の修了者
具体的な業務は以下の通りです。
- 保護具の適正な選択に関すること。
- 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
- 保護具の保守管理に関すること。
選任した場合は、保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示する必要があります。
有機溶剤の適用除外認定
消費する有機溶剤の量が少量で、健康的にリスクの少ない量(許容消費量以下)であるときは、最寄の労働基準監督署の認定を受けることで、有機則の適用を一部免除してもらえます。
労基署から免除された場合、作業環境測定や健康診断などの実施が免除されます。
許可が受けれる消費量は下記の表のとおりです。
