
職場の「空気」は、ミスやトラブルを未然に防ぐ鍵になります。中でも、心理的安全性が確保されているかどうかは、チーム全体のパフォーマンスや安全行動に大きく影響します。「こんなこと言っていいのかな?」「また怒られるかも…」という不安があると、情報共有が遅れたり、報告が途絶えたりしてしまいます。
この記事では、現場で使える「声掛け術」を10のケース別に解説し、心理的安全性を高めながらミス・トラブルを防止する方法を紹介します。上司、リーダー、安全管理者の方にとって、日々のちょっとした言葉が組織を変えるヒントになるはずです。
(関連記事)Googleが実践している1on1の内容とは?―生産性と信頼を高めるマネジメント術 | 安全の王道
心理的安全性とは?

「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、自分の考えや気づきを安心して発言できる状態を指します。Googleが行ったプロジェクト「Aristotle」では、最も成果を上げるチームの共通点として、この心理的安全性の高さが挙げられました。
職場での心理的安全性は、安全衛生活動においても極めて重要です。ヒヤリ・ハットの共有、異常時の報告、改善提案の活性化など、あらゆる場面で“声が上がる”かどうかが、安全レベルに直結するからです。
声掛けの重要性:行動が変わる第一歩

心理的安全性をつくるのに特別な研修は不要です。日々の何気ない「声掛け」こそが最も効果的な手段です。
- 「この人に話しても大丈夫」と思わせる
- 指摘が攻撃に感じられないようにする
- 不安を受け止める姿勢を見せる
これらを意識することで、チームの空気がガラッと変わることがあります。次章からは、実際の職場でよくあるシーンごとに、どんな声掛けが有効なのかを具体的に紹介します。
ケース①:新人が報告をためらっているとき

NGな対応:
「何で早く言わなかったの?」
OKな声掛け:
「どんな小さなことでも大丈夫。迷ったら教えてくれると助かるよ」
新人は「こんなことを言ったら怒られるかも」と感じやすいものです。最初に「報告のハードルを下げる」言葉を意識的に伝えることがポイントです。
ケース②:作業中のミスを指摘したいとき
NGな対応:
「それ間違ってるよ。ちゃんとマニュアル見てる?」
OKな声掛け:
「念のため確認なんだけど、ここの手順ってこうだったっけ?」
相手のプライドを傷つけずに気づきを促すような、“確認口調”や“共有口調”が有効です。ミスの指摘は、事実だけにフォーカスし、人格や能力を否定しないことが鉄則です。
ケース③:部下が意見を言わないとき

OKな声掛け:
「まだ固まってない意見でもいいから、聞かせてもらえるとうれしいな」
「どんな視点でも歓迎だよ。遠慮なくどうぞ」
「ちゃんとした意見を言わなければいけない」と思わせると、口が重くなります。“未完成でも歓迎”というスタンスが心理的安全性を高めます。
ケース④:チームで事故が起きた後
NGな対応:
「誰が原因だったのか?」
OKな声掛け:
「仕組みのどこに問題があったのか、一緒に考えよう」
「みんなで再発防止のヒントを出し合いたいんだ」
個人を責めず、“プロセスの改善”に焦点を当てることで、再発防止にもチームの信頼にもつながります。
ケース⑤:注意喚起をしたいとき
OKな声掛け:
「自分もやりがちだから気をつけようって思ってるんだけど…」
「念のため声かけておくね」
自分も同じミスをする可能性があると示すことで、指摘が「上から目線」に聞こえにくくなり、相手も素直に受け入れやすくなります。
ケース⑥:変化に対して反発があるとき
OKな声掛け:
「慣れてるやり方が一番やりやすいよね。ちょっとずつ一緒に慣れていこう」
「この変更が面倒に感じるところ、他にもない?」
変化は不安を生みます。その不安に共感しながら、“対話の姿勢”を示すことがカギになります。
ケース⑦:体調不良が見られるとき

OKな声掛け:
「最近、少ししんどそうだけど大丈夫? 無理してない?」
「気になることがあったら、何でも相談してね」
体調やメンタルの不調は放置されがちです。「気づいていますよ」という一言が、早期ケアと予防につながります。
ケース⑧:ヒヤリ・ハット報告を促したいとき
NGな対応:
「なんでそんなことが起きたの?」
OKな声掛け:
「ナイス報告! 早くわかってよかった!」
「この報告が他の人の参考にもなるね」
“報告したことで褒められた”という体験が、報告文化の土台を作ります。心理的安全性の基本は「報告しても責められない」という確信です。
ケース⑨:誰かの不満が噂になっているとき
OKな声掛け:
「最近気になること、直接話せる機会があれば聞かせてほしいな」
「何か困ってることがあったら、遠慮なく相談してね」
間接的な不満や噂には、“聞く耳がある”という姿勢を見せることが先決です。放置するとチーム内の信頼低下に繋がります。
ケース⑩:上司へのフィードバックが出にくいとき
OKな声掛け:
「自分にも改善点があると思ってるから、遠慮なく言ってくれると助かる」
「みんなの声がチームづくりのヒントになるんだ」
“上司は完璧でなくてよい”という姿勢を見せることで、部下も安心して意見を出しやすくなります。
最後に:小さな声掛けが大きな安全文化をつくる

心理的安全性は、いきなり高まるものではありません。日々の声掛けの積み重ねによって少しずつ育まれていくものです。
本記事で紹介した声掛け例を参考に、明日からの現場で「安心して話せる職場づくり」に取り組んでみてください。それはやがて、重大なミスやトラブルを未然に防ぐ力強いチーム文化へとつながっていくはずです。