
チームの生産性や創造性を高めるには、メンバーが安心して意見を言える「心理的安全性」が欠かせません。実は、世界的IT企業のGoogleもこの心理的安全性に注目し、独自の調査を通じてその重要性を明らかにしました。
本記事では、Googleが取り組んだプロジェクト「アリストテレス」から見えてきた心理的安全性の本質と、同社がどのようにして成功事例を生み出したのかを詳しく紹介します。組織改善やチームマネジメントに取り組む方にとって、必見の内容です。
(関連記事)Googleが実践している1on1の内容とは?―生産性と信頼を高めるマネジメント術 | 安全の王道
心理的安全性とは何か?
心理的安全性(psychological safety)とは、「このチームでは自分の意見を述べたり、ミスを認めたりしても、罰されたり恥をかいたりしない」という信頼感や安心感のことを指します。これは、1999年にハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された概念です。
心理的安全性が高いチームでは、メンバーが自由に発言・行動できるため、情報共有が活発になり、創造的なアイデアが生まれやすくなります。逆に心理的安全性が低いと、メンバーは無難な行動しか取らなくなり、問題を抱えたまま業務が進行することもあります。
(関連記事)心理的安全性とは?職場の生産性向上に必要な要素を徹底解説 | 安全の王道
Googleが注目した理由とは?

Googleは、数多くの優秀な人材を抱えながらも、チームごとの成果に大きなバラつきがあることに課題を感じていました。つまり、「誰がチームにいるか」よりも、「どのようにチームが機能しているか」がパフォーマンスに影響しているのではないかという仮説です。
この疑問を解決するためにGoogleが立ち上げたのが、社内プロジェクト「アリストテレス(Project Aristotle)」でした。
プロジェクト・アリストテレスの概要
プロジェクト・アリストテレスは、2012年に開始されたGoogle社内の研究プロジェクトで、数百のチームを対象に「効果的なチームとは何か?」を科学的に解明することを目的としました。調査では、チームの構成、スキル、性格、マネジメント手法、文化など、さまざまなデータが収集・分析されました。
しかし意外にも、「メンバーの学歴やスキル」「マネージャーの能力」などの定量的な要素よりも、チーム内の雰囲気や関係性が、成果に強く関係していることが明らかになったのです。
成功チームに共通していた「心理的安全性」
プロジェクトの結果、Googleは高パフォーマンスチームに共通する5つの要素を発見しました。中でも最も重要とされたのが「心理的安全性」です。以下がその5要素です。
- 心理的安全性(Psychological Safety)
- 相互信頼
- 構造と明確さ
- 仕事の意味
- 仕事のインパクト
特に心理的安全性は、他の4要素の土台とも言える存在であり、安心して発言・行動できる環境がなければ、他の要素も機能しにくいとされています。
Googleの実践:心理的安全性を高める施策

Googleが心理的安全性を重視するようになったのは、プロジェクト・アリストテレスの成果がきっかけですが、心理的安全性を実際の職場に浸透させるには、継続的で具体的な取り組みが不可欠です。Googleでは「マネージャー」「チーム文化」「フィードバック環境」など多方面にわたって、心理的安全性を高めるための施策が行われています。以下、それぞれの施策を具体的に解説します。
「傾聴」と「共感」を基盤にしたマネージャー研修
Googleでは、マネージャーの役割を「チームの生産性を支えるファシリテーター」と定義しており、リーダーシップよりもサポート力が重視されます。その中で最も重要視されているのが「傾聴スキル」です。
主な研修内容
- アクティブリスニング(相手の話を途中で遮らず、最後まで聴く)
- フォローアップ質問(「それはなぜ?」と関心を示す)
- 感情への共感(「大変だったね」と気持ちに寄り添う)
このようなスキルを通じて、メンバーが「受け入れられている」と実感できる関係を築きます。マネージャーがオープンであるほど、部下は安心して発言できるようになります。
定例の「チェックイン」で雑談もOKな空気づくり

Googleの多くのチームでは、ミーティングの冒頭に「チェックイン」と呼ばれる簡単な対話タイムが設けられています。
たとえば:「最近何か楽しいことあった?」「週末はどう過ごした?」など、業務に直接関係ない話題でもOKです。
このチェックインによって、心理的な距離が縮まり、チーム全体の親密度が高まります。これが、業務の議論でも安心して意見を出せる土台になります。
定期的な「ふりかえり(Retrospective)」文化の定着
アジャイル開発手法でもよく見られる「ふりかえり(レトロスペクティブ)」を、Googleでは開発部門以外のチームでも導入しています。
ふりかえりの主な形式
- 「うまくいったこと」「課題」「次にやること」を分類して共有
- メンバー全員が均等に発言できるよう、順番に話す形式
- 言いにくいことも伝えやすくする「KPT法(Keep・Problem・Try)」の活用
振り返りの中では、「誰かのミスを責める」ことは禁止されています。課題はチーム全体の問題として捉え、「どう改善するか」を建設的に話し合う姿勢が徹底されています。
エラーブレイム文化の撤廃と「学びの共有」
Googleでは、ミスや失敗を「学びの機会」と捉える文化が根づいています。特に以下のような行動指針が明確です。
- ミスの原因は「人」ではなく「仕組み」にあると考える
- ミスを共有することは「貢献」として評価される
- ポストモーテム(事後分析)で再発防止策をチーム全体で検討する
あるGoogleのエンジニアは、重大なトラブルを起こした際、むしろ「このケースを共有してくれてありがとう」と上司に言われたといいます。これは、心理的安全性がしっかり機能している組織の象徴的なエピソードです。
多様性と包摂(D&I)との連携

Googleでは心理的安全性の向上は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の施策とも密接に関連づけられています。さまざまな背景や価値観を持った人が「自分らしくいられる」ことが、心理的安全性の実現に不可欠だと考えているからです。
具体的なD&Iの取り組み
- 無意識バイアストレーニングの実施
- 異文化理解ワークショップの開催
- LGBTQ+への配慮を含むインクルーシブな制度設計
D&Iの推進が、すべての人にとって「安心して発言できる職場」を作るための基盤となっているのです。
データドリブンな継続改善

Googleはすべての施策を「感覚」で終わらせず、定量的に評価しています。心理的安全性のレベルも、匿名の社員サーベイで定期的に測定され、マネージャーへのフィードバックに活用されています。
Google社内で使用されている質問例:
- 「このチームでは、ミスをしても非難されないと感じる」
- 「チーム内で困ったことを率直に話せる」
- 「自分の考えが尊重されていると感じる」
このようなデータに基づいて、問題のあるチームには改善の支援が行われるなど、継続的な成長が図られています。
他社にも広がるGoogle式心理的安全性
Googleの実践例は、多くの企業にも影響を与えました。たとえば、日本の大手企業やスタートアップ企業でも、チームビルディングの一環として心理的安全性を意識したマネジメントが広がっています。
また、厚生労働省も「職場環境改善」や「ハラスメント防止」の一環として、心理的安全性を含めた取り組みを推奨しています。心理的安全性は、単なる人間関係の問題ではなく、業績や離職率にも直結する経営課題と捉えられつつあるのです。
企業が実践するためのポイントと注意点
心理的安全性を実際に高めるためには、以下のようなポイントがあります。
- 経営層・マネジメント層の理解とコミットメント
- 継続的なフィードバックと対話の場の設置
- 小さな成功体験の積み重ね(例:意見が尊重された経験)
- 評価制度との整合性(発言や改善提案を評価する)
注意点として、「なんでも許される」雰囲気と勘違いされないよう、ルールや責任の明確さとのバランスが必要です。
まとめ:心理的安全性が生むチームの未来

Googleの実践例は、「心理的安全性」が単なる理想論ではなく、成果につながる具体的な要素であることを示しています。自由に意見を言える環境、挑戦や失敗が歓迎される文化、そして信頼でつながるチームこそが、変化の激しい現代において持続的に成果を上げられるのです。
どんなに優秀な人材が集まっていても、その力が発揮されなければ意味がありません。今こそ、心理的安全性をチームや職場に取り入れ、メンバーの可能性を最大限に引き出す環境づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか?