高齢者が安心して働ける職場へ:照明設計における安全衛生とエイジフレンドリーの視点

日本の労働力人口に占める高齢者の割合が年々増加する中、高齢者が安全かつ快適に働ける職場環境づくりは喫緊の課題となっています。とりわけ照明環境は、視力の衰えや眼精疲労を抱える高齢者にとって、作業効率だけでなく健康や安全に直結する重要な要素です。

本記事では、「エイジフレンドリーガイドライン」などの行政指針を踏まえ、高齢者の働く環境にふさわしい照明設計について、安全衛生の視点から解説します。高齢者の労働災害を防止し、職場全体の生産性と快適性を向上させるためのヒントをお届けします。

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高齢化が進む職場環境の現状と課題

日本の労働市場では、定年延長や高年齢者雇用安定法の改正により、60歳以上の従業員が一般的に見られるようになりました。70歳まで働ける職場環境づくりも推進されており、「人生100年時代」に向けて高齢者の就業継続はますます重要視されています。

しかし一方で、高齢労働者の労働災害は依然として高水準です。特に、転倒や視認ミスによる事故が多く、その背景には加齢に伴う身体機能の変化があります。中でも、視力やコントラスト感度の低下は、適切な照明が確保されていないと大きなリスク要因となります。


照度と生産性の関係

一般的に、照度が低いと目の疲れや集中力の低下を引き起こし、生産性が低下します。視覚的な快適さは、作業効率に直接的な影響を与えるため、適切な照度が求められます。

例えば、ある研究によると、照度が300ルクス以下になると、作業者の集中力が低下し、生産性が15~30%程度低下することが示されています。照度が150ルクス以下の場合、誤操作やミスの確率が20%程度増加するというデータもあります。一方で、照度が1000ルクス以上の環境では、作業者の生産性が最適化され、エラー率も減少する傾向があります。

高齢者特有の視覚特性と照明の関係

高齢者の視覚は若年層と比べて多くの違いがあります。代表的なのが水晶体の濁りや黄変、瞳孔反応の遅延、暗順応の低下です。これにより、薄暗い環境では物の輪郭が見えづらくなったり明るさの変化に対応しづらくなったりします。

また、まぶしさへの感受性が高まることから、強すぎる照明や照り返しはかえって視認性を下げてしまいます。このような加齢に伴う視機能の低下を踏まえた照明設計が、高齢者にとって安全で快適な作業環境をつくる鍵となります。

各種論文からのまとめ表(年齢別変化の目安)

項目20代60代変化の度合い(例)
視力1.00.6~0.7程度年0.02程度の低下
調節力(老眼)10~14D1~2D約85~90%低下
水平視野約180度約140~160度最大40度縮小
コントラスト感度正常約50%低下特に暗がりで顕著
まぶしさの感受性通常約2~3倍に増加白内障・瞳孔反応低下の影響
青系の色識別力正常40~60%低下水晶体の黄変が影響

エイジフレンドリーガイドラインにおける照明設計の考え方

厚生労働省が発行する「エイジフレンドリーガイドライン」では、高齢者が働きやすい職場づくりの一環として、照明環境の整備を重要項目としています。ガイドラインでは、作業エリアの十分な明るさだけでなく、照度の均一性やまぶしさの防止、色の識別しやすさへの配慮も求められています。

特に注目すべきは、「視認性の高い環境づくり」の観点から、300ルクス以上の照度を目安とし、局所照明を併用することで高齢者が見やすい環境を整えることが推奨されている点です。また、文字や表示板の視認性を高めるためには、文字の大きさや背景とのコントラスト比にも注意が必要とされています。


安全衛生の視点から見た適切な照明環境とは

労働安全衛生法では、作業場における照度の基準が設けられていますが、それは最低限の基準にすぎません。高齢者の視覚特性を踏まえると、これらの基準を上回る照度が必要になるケースも多くあります。

安全衛生の観点からは、明るすぎず、暗すぎず、見やすく、疲れにくい」照明が理想です。たとえば、全体照明だけではなく、手元の作業内容に応じた局所照明を追加し、グレア(まぶしさ)を軽減するための遮光処理を施すことが望まれます。

また、照明の色温度も重要です。白すぎる光(高色温度)は疲労を助長し、逆に暖かみのある光(低色温度)はリラックス効果があるものの、細かい作業には適しません。作業内容に応じて色温度を調整することも、安全かつ効率的な環境づくりに有効です。


照明改善による労働災害の防止と生産性向上

照明を見直すことで、高齢労働者の転倒やつまずきといった災害を防止する効果が期待できます。例えば、床と段差の視認性を高めるために照明角度を調整したり、視認しやすい色でマーキングを行うことで、安全性が飛躍的に向上します。

また、視認性の高い環境は作業効率にも直結します。照明が不十分な環境では、視力を過度に使うことで眼精疲労を引き起こし、集中力が低下してミスや事故の原因となることがあります。適切な照明によってこれらの問題を防ぐことは、労働災害を減らすだけでなく、職場全体の生産性にも大きく貢献します。


実践に向けた取り組みと照明設計のポイント

実際の職場で照明改善を行う際は、まず現場の作業環境や従業員の年齢構成を把握することから始めます。次に、現行の照明が高齢者にとって十分な明るさや視認性を提供しているかどうかを評価し、必要に応じて改善を加えます。

たとえば、照明器具の位置や角度を変えるだけで、影やまぶしさが解消されることもあります。また、LED照明に切り替えることで、明るさの確保と省エネの両立も可能です。必要に応じて専門業者の診断を受けるのも有効な手段です。

従業員からのフィードバックも重要です。実際に働いている人の「見づらい」「まぶしい」といった声は、最も信頼できる改善のヒントになります。定期的に職場環境を見直し、改善のPDCAサイクルを回していくことが、真にエイジフレンドリーな職場づくりには欠かせません。

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まとめ:高齢者が活躍できる職場づくりの第一歩

照明設計は、高齢者が安全かつ快適に働くための環境づくりにおいて、決して軽視できない要素です。視覚機能の低下に配慮しながら、エイジフレンドリーの観点と安全衛生の基準を両立させることで、事故を防ぎ、生産性も高めることができます。

これからの時代、高齢者が生き生きと働き続けられる職場づくりは企業にとっての責任であり、社会全体の活力を支える基盤でもあります。その第一歩として、ぜひ照明環境の見直しから取り組んでみてはいかがでしょうか。

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