
職場や日常生活において「転倒」は軽視されがちですが、実は労災の中でも発生件数が多い事故の一つです。転倒によるケガは骨折や打撲にとどまらず、長期休業や後遺症につながるケースも少なくありません。
特に高齢者や工場、建設現場などではリスクが高く、転倒によるケガが重篤化することもあります。そのため、労働環境において適切な転倒防止対策を講じることが求められています。
本記事では、転倒が原因で発生する労災の実態や、企業が実施すべき具体的な対策を詳しく解説します。
転倒による労災の実態とは?
転倒事故の発生件数と影響
厚生労働省の統計によると、労働災害の中でも「転倒」は最も多い事故の一つです。特にサービス業、医療福祉業、建設業での発生率が高く、転倒によるケガは骨折や打撲だけでなく、場合によっては死亡事故にもつながる危険性があります。
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主な発生場所と原因

転倒事故は主に以下のような場所で発生します。
- オフィスや店舗:床の清掃後の濡れた状態、コード類の放置
- 工場や倉庫:油や水による滑りや段差の見落とし
- 建設現場:足場の不安定さや高所作業時のバランス崩し
また、主な転倒の原因として、
- 滑り(スリップ):床が濡れている、油が付着している
- つまずき(トリップ):段差がある、障害物がある
- 踏み外し(ステップ):階段やステップの見誤り
が挙げられます。
転倒によるケガの種類

転倒事故によって発生しやすいケガは以下の通りです。
- 骨折(特に高齢者に多い)
- 捻挫や打撲
- 頭部外傷(転倒時に頭を打つ)
高齢者における転倒リスクと重篤化の傾向
高齢者は転倒による労災が特に多く、ケガをした際に重篤化しやすい傾向があります。
年齢と共に骨密度が低下し、骨折しやすくなるため、転倒によって生じるケガが長期的な後遺症や入院、最悪の場合は死亡に繋がることがあります。
また、高齢者はバランス感覚や反応速度が低下しているため、転倒を避けることが難しく、転倒事故のリスクが一層高くなります。
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転倒を防ぐための基本対策
適切な床材の選定
滑りにくい床材を選定することで、転倒リスクを大幅に軽減できます。
特に、ノンスリップ加工のタイルやラバーマットが効果的です。
転倒防止マットの活用
出入り口や厨房、工場の作業エリアなど滑りやすい場所には、滑り止め付きのマットを設置することで安全性を向上できます。
清掃と点検の重要性
- 床の清掃後は必ず乾燥させる
- 配線や障害物を整理する
- 定期的に点検し、滑りやすい箇所を改善する
職場における転倒防止の取り組み
労働安全衛生法に基づく企業の責務
企業は労働安全衛生法に基づき、安全な労働環境を整える義務があります。
転倒防止対策を講じることは、企業のリスク管理としても重要です。
労働安全衛生法に基づく企業の責務
従業員向けに転倒防止のための研修や安全教育を実施し、注意喚起を行うことで事故を減少させることができます。
ヒヤリハット報告制度の活用
転倒の危険があった事例を従業員が報告し、未然に防ぐ仕組みを作ることで、安全対策を強化できます。
個人ができる転倒対策
歩行時の注意点
- 急いで歩かない
- 視線を下げ、障害物に注意する
- 滑りやすい場所では小股で歩く
適切な靴の選び方

- 靴底が滑りにくい素材のものを選ぶ
- かかとが安定する靴を履く
体幹トレーニングによる予防

- バランス感覚を鍛えるための運動(片足立ち、スクワット)
- 筋力を維持するための日常的なストレッチ
まとめ
転倒事故は日常生活や職場において避けられないリスクですが、特に高齢者にとっては転倒が重篤化しやすく、その影響が大きいことを認識する必要があります。
適切な対策を講じることで、転倒リスクを大幅に減少させることができます。
企業としては、労働安全衛生法に基づいた対策を実施し、従業員の安全教育を強化することが求められます。
また、個人レベルでも適切な歩行や靴の選択、体幹トレーニングなどを取り入れることで、転倒リスクを減少させることができます。
事故を未然に防ぐために、日頃から意識して安全な環境を整えていきましょう。