職場における「メンタルヘルス対策」について


働く人の健康

職場には、労働者に力だけでは取り除くことのできないストレス要因が存在しています。

特に、近年のグローバリゼーションと技術革新にともなう急速な高度情報化や経済社会の変化によって、労働者が受けるストレスの内容は、従来の身体的なものから心理的、精神的なものに変化しています。

ストレスとは?

ストレスという言葉は日常でもよく使われていますが、もともとは、物体に歪みを生じさせる圧力を意味しています。

ストレスには①ストレッサー(ストレス要因)、②ストレス抵抗力、③ストレス反応という3要素があって、3つの要素は、ボールを指で押すという行為で説明ができます。

  • ①ボールを押さえつける力:ストレッサー
  • ②ボールの弾力性:ストレス抵抗力
  • ③ボールの歪み:ストレス反応

日常生活における様々なストレスのうち、仕事の特徴によって引き起こされる身体的・精神的な反応のことを職業性ストレスといいます。

「ストレスは人生のスパイス」といわれるように、困難な状況を乗り越えたという経験は、人に満足と成長をもたらしますが、問題が過度に困難だったり、自分の力だけでは解決できなかったり、周囲のサポートがないと疲労感や絶望感が持続することもあります。

このように、職業性ストレスには、プラスの面とマイナスの面が存在するのです。

職場におけるメンタルヘルス対策の重要性

労働者健康状況調査によると、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は平成27年調査においても6割近くに達しています。

また、心の健康問題により休業している労働者がいる事業場が増加しているという調査結果もあり、メンタルヘルス対策は、企業にとって見通ごせない問題となってきている。

このようなことから、平成27年11月「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)が策定されました。

また、メンタルヘルスの対策として平成16年10月「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表し、心の健康問題により休業した労働者の実際の職場復帰に当たり、事業者が行う職場復帰支援の内容が示されています。

メンタルヘルス指針の概要

労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)では、事業場において事業者が講ずるよう努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置(メンタルヘルスケア)が適切かつ有効に実施されるよう、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法が示されています。

具体的には、事業者が衛生委員会等においてメンタルヘルスケア対策に関する調査審議を行い、心の健康づくり計画を策定し、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「事業場外資源によるケア」の4つのケアを継続的かつ計画的に推進することが記載されています。

4つのケアを推進するためには、次の取組について関係者が連携して推進する必要があります。

  • 教育研修、情報提供
  • 職場環境等の把握と改善
  • 不調への気づきと対応
  • 職場復帰における支援

ストレスチェック制度の概要

労働安全衛生法では、労働者を50人以上雇用している事業者は、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」という。)を実施する義務があります

このストレスチェック制度の概要は以下のとおりです。

  • 事業者は、労働者に対し、医師、保健師等によるストレスチェックを行わなければならないこと。
  • 検査結果は、検査を実施した医師等から直接本人に通知され、あらかじめ本人の同意を得ないで、 検査結果を事業者に提供してはならないこと。
  • 事業者は、検査結果、一定の要件に該当する労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行わなければならないこと。また、事業者は、申出を理由として、不利益な取扱いをしてはならないこと
  • 事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じなければならないこと。
  • 厚生労働大臣は、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表すること

ストレスチェックを実施したときは、所轄の労働基準監督署に報告する必要があります(報告様式や記載例はこちら

また、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を策定し、ストレスチェック制度の適切な実施の推進を図っています。

50人未満の事業所にもストレスチェック義務化へ

2024年10月10日、厚生労働省は「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」において、中間取りまとめの骨子案を発表しました。

今回の骨子案では、50人未満の事業場にもストレスチェックの義務化を拡大することが提案されています。これにより、全ての事業場でメンタルヘルス対策が徹底され、労働者の健康管理がさらに強化されることが期待されています。

検討会では、ストレスチェックの実施義務を50人未満の事業場にも拡大することが適当であるとの意見が多数を占めました。しかし、小規模事業場がこの義務化に対応するためには、準備期間の確保と支援体制の整備が不可欠だとの指摘がなされました。

具体的には、小規模事業場では産業医の選任義務がなく、ストレスチェックの実施体制が整っていないため、外部機関を活用することが推奨されています。

こうした支援体制の一環として、地域産業保健センター(地産保)などの公的機関を活用することで、コストを抑えつつ適切なメンタルヘルス対策を進めることが可能です。また、事業場の規模に応じた柔軟な運用が求められ、過度な事務負担を回避する方針が議論されています。

自殺防止対策

平成10年度以降自殺者の数は年間3万人を超えており、平成24年以降3万人を下回ったものの、 依然として労働者の自殺数も約7,300人と高い水準で推移しています

そこで厚生労働省では、労働者の自殺予防に必要な知識を普及させるため、平成13年12月に「職場における自殺の予防と対策」(自殺予防マニュアル)を作成するとともに、メンタルヘルス対策の一環としても自殺対策に取り組んでいます。

また、平成18年6月に自殺対策基本法が成立し、その中で、国は、自殺対策を総合的に策定し、実施する責務を有することが明記されました。

さらに、事業者が、その雇用する労働者の心の健康の保持増進を図るため、必要な指置を講ずるよう努めることが規定されるなど、職域における自殺対策の一環としてもメンタルヘルス対策の推進が求められているところです。

返信転送リアクションを追加

PAGE TOP