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職場における有害因子はどんなものがあるの?
人の健康に影響があり、職業性疾病の原因となる「有害因子」は次のように分類されます。
- 化学的因子:粉じん、金属、化学物質、酸素欠乏など
- 物理的因子:電離放射線、騒音・振動など
- 生物学的因子:病原微生物、昆虫など
- 作業態様因子:重量物取扱、作業姿勢などの作業の方法によって引き起こすもの
業務上の発生状況を見ると、「化学的因子」「物理的因子」「作業態様因子」による労災が多く発生しています。
有害因子の健康影響とは
人が有害化学物質や有害エネルギーに暴露したとき、その量が大きいほど健康障害が発生する可能性が高く、逆にごく微量であれば、ほとんど健康に影響はでないと考えられています。
このような、有害物の暴露量と発生する健康障害との関係について、「量ー影響関係」と「量ー反応関係」と2つの考え方があります。
量ー影響関係とは?
有害因子の負荷量に対する生体影響の発生の状況を個体のレベルでみたものであり、一般的に負荷量が小さければ影響はわずかであり、負荷量が増えるにしたがって重大な健康影響が発生します。
量ー反応関係とは?
生体影響がどの程度の負荷量で発生するかは、個人によって差があります。
有害物に暴露した集団において、特定の生体影響に注目して、負荷量と生体影響の現れたものの割合の関係を見たものが「量ー反応関係」です。
横軸に負荷量を、縦軸に影響の現れたものの割合をとったグラフを書くとS字型の極性になるのが一般的です。

ばく露限界値ってなに?

労働の現場においては、原材料として使用される化学物質等種々の有害因子が存在しているが、有害なものを取扱う場合等においてその有害因子への労働者のばく露を完全になくすのは非常に困難で、現実的ではありません。
有害因子による生体影響には個人差はあるものの、有害因子へのばく露が少なくなれば生体影響は小さくなり、量一反応関係からみて、 ほとんどの労働者に有害な影響を生じない負荷レベルを想定することができ、そのレベル以下で業務を管理していくことが現実的です。
このように有害な影響を生じないレベルという点から示されているのがばく露限界であり、化学物質に係るばく露限界としては米国ACGIHの示しているTLVや日本産業衛生学会の示している許容濃度がよく知られています。
TLV (Threshold Limit Value,闖值)
ACGIH (American Conference of Governmental Industrial Hygienists)では、TLVを次のように定義しており、多くの化学物質についてのTLVを毎年追加、改定しながら発表しています。
「このTLVは、作業環境中の化学物質の濃度に関するもので、その濃度に毎日繰り返してばく露されながら働いている労働者の大多数が健康に悪影響を受けることがないと考えられる条件を表すものである。しかし、個々の労働者の化学物質に対する感受性には大きな差異があり、そのために、ある種の物質に対してTLV以下の濃度でも、少数ではあるけれども不快感を覚えたり、さらに少数ではあるが既往症が悪化したり職業病にかかるという深刻な影響を受ける者が皆無とは言い切れない。」
TLVには3つのカテゴリーがあります。
時間加重平均 (TLV-TWA Time Weighted Average Concentration)
1日8時間、週40時間の正規の労働時間中の時間過南平均濃度として表され、大多数の労働者はその条件に連日繰り返しばく露されても健康に悪影響を受けない。
短時間ばく露限界 (TLV-STEL, Short Tern Exposure Limit)
1日の平均ばく露がTLV-TWAを超えないことを条件として、短時間継続的にその度境にばく露されても、①耐えられないほどの刺激、②慢性的または非可逆的な生体組織の損傷、麻酔作用による障害事故発生の危険増加、自制心の損失、または著しい作曲率能下の起こらない濃度の限界を表します。
TLV-STELはそれだけで単独の限度と考えるべきでなく、慢性影響が第一に考慮されるべきであるが同時に急性作用も認められるような有害物質について、TLV-TWAを補足するものと考えるべきです。
TLV-STELは人または動物に対する短時間高濃度ばく露による毒作用が報告されている物質に限って勧告され 、 TLV-STELは、時間加重平均濃度がTLV-TWA を超えない場合であっても、その中のどの15分間についても超えてはならない限度と定義されています。
天井値 (TLV-C. Ceiling)
たとえ瞬間的にでも超えてはいけないばく露領のことをいいます。
許容濃度
日本産業衛生学会では昭和36年以来、多くの化学物質等について許容濃度を勧告または提案しています。
許容濃度の基本的な考え方はACGIHの思想を取り入れたものであり、許容濃度について次のように定義しています。
「許容濃度とは、労働者が1日8時間、週40時間程度肉体的に激しくない労働強度で有害物質に様露される場合に、当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であれば、 ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度である。」
許容濃度には「最大許容濃度」の概念があります。
最大許容濃度とは、作業中のどの時間をとっても場露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度です。
管理濃度
TLVや許容濃度のほかに、厚生労働省から。「管理濃度」が示されています。
労働安全衛生法では、電離放射線を除き個人のばく露量を管理するという方法はとらず、作業環境を良好な状態に管理することにより、結果として個人のばく敵を一定レベル以下とするというアプローチをしています。
管理濃度は、作業環境の状態の適否を判断するために、作業環境測定結果に基づく作業環境の評価の指標として示されているもので、TLVや許容濃度を参考に行政的に定めたものであり、T LVや許容濃度のように労働者のばく露量と直接対比するものではありません。