
2024年の労働安全衛生法改正により、化学物質のリスクアセスメント義務が強化され、一定の化学物質を取り扱う事業場には「化学物質管理者」の選任が必要となりました。しかし「選任はしたけど、その後どうすればいい?」「掲示が必要なの?」といった疑問を抱く担当者も多いのではないでしょうか。実は、法律上「掲示」は義務ではなく、「周知」が義務です。その周知方法の一つとして「掲示」がよく用いられているのです。
本記事では、「化学物質管理者の周知義務」の基本から、掲示による効果的な周知方法、実務での運用ポイントまで詳しく解説します。
化学物質管理者とは?

化学物質管理者は、労働者の健康障害を防止するために、職場で化学物質を安全に取り扱うための管理体制を担う責任者です。化学物質の危険性・有害性に関する知見を有し、リスクアセスメントの実施や教育指導など、安全衛生管理の中核的役割を果たします。
法的根拠
- 労働安全衛生法第12条の5
- 関連政省令:化学物質のリスクアセスメント義務の拡大(2024年4月施行)
周知義務と掲示の位置づけ
なぜ「掲示」が話題になるのか?
多くの現場で「掲示しないと違法になる」と誤解されがちですが、法的には「掲示義務」ではなく、「周知義務」が存在します。つまり、労働者に対して化学物質管理者の氏名や職務内容を“分かるように知らせる”ことが求められているのです。
法的文言(要点):
「事業者は、化学物質管理者の氏名及び職務について労働者に周知しなければならない。」
(労働安全衛生法施行令・安全衛生規則より)

周知の方法と「掲示」の有効性
周知方法の例(厚労省も明記)
- 掲示板に掲示(多くの企業が採用)
- 社内イントラネット・ポータルサイトへの掲載
- 安全衛生会議や朝礼での口頭説明
- 周知文書やメモの配布
- 教育資料への明記
このように、掲示はあくまで「周知方法の一つ」であり、強制ではありません。しかし、手軽で継続的な可視化が可能なため、実務上は広く用いられています。

掲示による周知の実務ポイント
掲示する内容:
- 氏名
- 所属部署
- 管理者の職務内容の簡潔な説明(推奨)
掲示する場所:
- 更衣室前や休憩室の掲示板
- 工場内の安全衛生掲示板
- 出入り口近くの掲示エリア
掲示例(テンプレート):
【化学物質管理者のお知らせ】
氏名:山田 太郎
所属:製造部 安全衛生課
主な業務内容:
・化学物質のリスクアセスメント
・安全な取扱手順の整備と指導
・保管状況の確認と是正
この職場の化学物質管理者です。何かあればお声がけください。
掲示以外の周知方法のメリットと使い分け
方法 | 特徴・メリット |
---|---|
掲示 | 目に留まりやすい、更新が簡単 |
社内イントラ | リモート勤務者にも周知できる |
文書配布 | 記録として残りやすい |
朝礼・会議 | 労働者との双方向コミュニケーションが可能 |
複数の周知手段を併用することで、より確実な理解と定着を図ることができます。
周知義務を怠った場合のリスク
法令では、化学物質管理者の氏名・職務を労働者に周知しない場合、是正指導や勧告の対象になる可能性があります。安全衛生管理に関する指導を受けた場合、企業全体の信頼性低下やコンプライアンス上の問題にも発展しかねません。

実務で使えるチェックリスト
チェック項目 | 状況確認 |
---|---|
化学物質管理者の選任が済んでいるか | □ 済 □ 未 |
管理者の氏名・職務が明確になっているか | □ 済 □ 未 |
労働者に対して適切な方法で周知しているか | □ 済 □ 未 |
掲示内容や文書の内容を定期的に更新しているか | □ 済 □ 未 |
労働者からの問い合わせ体制が整備されているか | □ 済 □ 未 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 掲示していれば他の周知方法は不要ですか?
A1. 原則として掲示だけでも構いませんが、掲示場所や内容が不十分であれば「周知義務を果たしていない」とされる可能性があります。できれば複数の手段を併用しましょう。

「周知」とは、誰にでも見れる状態にすることを意味します。特定の人しか入れない場所やフォルダ内にのみ「化学物質管理者」の情報がある場合、従業員全員が確認できないため、周知できているとは言えませんね。
Q2. 掲示が古くなっていたら問題ですか?
A2. はい。化学物質管理者が交代した場合や職務内容が変更になった場合は、速やかに更新する必要があります。
Q3. 小規模事業場でも対象になりますか?
A3. 対象です。化学物質を取り扱う職場であれば、事業場の規模に関係なく、選任と周知が求められます。
まとめ:周知は「伝える努力の質」が問われる
労働安全衛生の観点から、化学物質管理者の存在を職場全体に認識させることは極めて重要です。「掲示」は最も簡便で視覚的に分かりやすい方法の一つですが、それだけで満足せず、定期的な教育や情報更新とセットで周知活動を行うことが望まれます。
掲示=義務ではなく、周知=義務
この原則を押さえ、正しく・効果的に伝える工夫が、職場の安全文化と信頼性を高めます。